YLゲット大作戦


 あのお姉さんが無線の電波に姿を現したのは、確か俺が中学3年の6月頃だったと思う。
その日俺はいつものように友達が出てこないかと、メインチャンネルに張り付いて待っていた。しかし、そんなときに限って暇な俺を相手にしてくれる人はいなかった。
そこでチャンネルをぐるぐる回していると、なんだか非常に強い電波が入ってくるではないか。しかもその電波に乗っている声は、かなり若そうなお姉さん。もちろん俺はチャンネルを回す手を止めて、その話に聞き耳を立てたのだった。
 ところが、そのお姉さんの声はしっかりと聞こえているのに、どんなにアンテナを回しても受信ブースターの感度を上げても、お姉さんと話しているはずの相手の声は聞こえてこなかった。
 実は当時の俺は、無線で話している人の声を聞くと、相手の使っている機械をだいたい当てることができた。もちろんマイクを取り替えられてしまっているとそれは不可能だったが、その機械に付属のマイクを使っていてくれさえすれば、相手の使っている無線機の型番を当てることができたのだった。
それで、俺の耳によると、そのお姉さんが使っている機械はモービル機だということがすぐにわかった。つまり相手の声は俺のアンテナを合わせれば十分聞こえるはずだった。不思議だなあと思いつつ聞いていると、そのお姉さんは相手に対してさよならの挨拶もしないで消えてしまったのだった。

 それから1ヶ月程経過したある夜のことだった。
その日も俺はいつものように、3.70集団のメンバーと楽しい話で盛り上がっていた。すると突然、友達の一人が
「あのさあ、昨日TomGの近くのM市からお姉さんがCQ出してたぞ。もしかするとあの声、学生かもな?」
なんてことを言い出すではないか。この話を聞いてうちのメンバーはもちろんゲット作戦を考え始めた。
 さて、そんな中、風呂から上がってジュースを飲みながらメインを聞いていた俺の耳に、話題のお姉さんのコールサインが飛び込んできた。しかもその声は、少し前に俺が聞いた声と全く同じだったのである。
しかし、残念ながらCQを出しているわけではなく、地元のおじさん連中のハムクラブのメンバーの一人を呼び出していた。
しかし、そのおじさん、お姉さんが呼んでいるというのに出てこないではないか!!すると、このまま聞いているともしかするとCQに変えるかもしれないと、そのときの俺は直感したのだった。
そこで俺は、いつものようにうちの主翼メンバーを電話で呼び出し、ウチらのよく使うチャンネルで待機するようにお願いしておいた。
すると案の定、そのお姉さんはCQを出し始めるではないか!!
そこで早速指定の周波数に移動して、こんなに近くなのにもかかわらずパワーを全開にして呼び出しをかけた。
もちろんお姉さんは目と鼻の先から電波を出しているんだから、俺が他の人に負けるはずもなかったのだが・・・。
そんなわけでめでたく俺はそのお姉さんと話し始めることができた。
もちろん俺はそのお姉さんに一番先に学生かどうかを聞きたかった。しかし、つながったばかりで女性に年を聞くのはかなりまずいので、当たり障りのない話から始めていった。
そのときの話し方から、このお姉さんは地元の出身で、学生ではないことがわかったが、とても明るく楽しい人だったので、うちの集団の仲間に入ってもらうことにした。
 そんなわけでそのお姉さんもその日から暇さえあれば俺たちの基地に出てくるようになった。
もちろんその年の8月に行った集団移動にも、そのお姉さんは運転手として参加してくれたりもして、かなり仲良くなった。
 ところが、無線の世界でお姉さんはかなり貴重な存在。しかも学生ではないとなると黙っていないのが地元の。。ハムクラブのメンバーだった。
 ある日、Kさんがアマチュア無線の合同ミーティングにいったとき、そのクラブの幹部から呼びつけられて、こっぴどく説教を食らうはめになったのだ。
しかもその内容というのは、
「おまえのところの会長は生意気だ。このままいくとほかのハムクラブにつぶされるぞ!」とか、「俺もあいつみたいに学生時代に生意気だったから、ほかのクラブにつぶされたんだ」とか、全く訳のわからないものだった。
ミーティングからかえってくるなりKさんは、俺にそんな話を持ちかけ、うちのクラブの活動を自粛するようにといった。
もちろんKさんはそのとき、そのハムクラブがうちの集団にお姉さんをとられたということに対して、焼き餅を焼いていることには気がついていなかったようだった。でも、俺にはそのとき、そのことはすぐにわかったから、メインでそのおじさんを呼び出して、じっくり話を聞いてみることにした。
ところが、そのおじさんと話してみると、いっていることがKさんと全く違っていた。
「どこかの局がそんなこといっているんですよ。私はそれを彼に伝えただけなんです。TomGくんも若いんだから、がんばってね。」
と帰ってきた。これにはKさんも驚いて、その後電話で話したとき、そのことを話してお互い納得することができたという事件があった。
 うちの集団に対しての被害はこれだけではなかった。
なんと、そのお姉さんがウチらのチャンネルに出てくると、俺たちの交信を電波妨害する人が多く現れ始めたのであった。
 さすがにここまでうちの集団への攻撃がエスカレートすると、俺も何らかの対策を講じなければならないと考え始めたが、決めてとなる対策はこれといって思い浮かばなかった。
そこで間に合わせにと、電波妨害を受けたときに逃げるチャンネルを決めておき、妨害している犯人に見つからないうちにそのチャンネルから別のチャンネルに移ることでしばらく対処していた。しかし、お姉さんをほしがるほかの集団からの攻撃はとどまるところを知らず、毎夜のごとくエスカレートしていった。

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