ぬいぐるみと私


 小さいときからふわふわしたものが好きで、犬や猫を家で飼いたいと思っていた私は、何度も両親に「犬飼いたい」
と言っていたのだが、父が大の動物嫌いだったため、それが実現することはなかった。
 その代わり私は小さいときからぬいぐるみが好きで、犬、猫、馬、熊、カッパ、牛などたくさん持っていて、寝るときにはずっとどれかをだっこして寝ていた。
特に私が気に入っていて、今でも実家の居間に置いてあるのがアライグマの「ラスカル」と、馬の「ポコ」である。
 ポコの方は、私が2歳の時誕生日のプレゼントとして買ってもらったもので、ずっと持ち歩いていたせいでしっぽが切れかかってしまったり、目が外れそうになっていたりするのだが、今でも時々実家に帰って手に取ってみると、このころの様々な思い出が走馬燈のように駆けめぐってくる。
このぬいぐるみには寄宿舎指導員の先生に頼んで作ってもらった鞍と手綱まで付いていて、本当にかわいいやつである。
ラスカルの方は、私が小学1年生の時の誕生日プレゼントに買ってもらったもので、とてもふわふわしていてかわいく、いつまででもだっこしていたいと思うほどさわり心地がいい。そしてこの丸っこい形を私はとても気に入っており、これを抱いて寝ることで、母に会えない寂しさを紛らわしていた。

 ぬいぐるみといえば今でも覚えている事件がある。
その日私は、みんなと一緒に食堂で夕食を取っていた。その日のメニューは私の大好きなカレーライスだった。
どうしてこんな話になったかは今では覚えていないのだが、そのうち誰かが、
「今から○ちゃんの部屋に行ってぬいぐるみを破いてくるか」
ということを言い出した。もちろんこんなのは冗談だったのだが 当時の私にとってぬいぐるみは寄宿舎の母の代わりであり、これを破られてしまうなんて悲しくてたまらなかった。
だから、好きなカレーライスのことなどどうでも良くなり、誰よりも先に部屋に戻って、ぬいぐるみの前に座り、お風呂にも入らないでずっと彼らを守り続けていたのだった。
そのうち寝る時間が近くなった頃、私のところにみんなが集まってきて、思い切り笑われて私は冗談だと分かったのだが、あのときは本当に怖かった。
もちろん安心した私に待っていたのは、ご飯を食べなかったことによるものすごい空腹感だったが、カレーライスは残っているわけもなく、私はその晩、おなかがすいてとても惨めな気分になった。
 そんな私を助けてくれたのは孝君だった。
家から持ってきたパンを私にくれ、先生が来ないかどうか部屋の入り口のドアの隙間から私がパンを食べ終わるまでの間ずっと見張っていてくれたのである。
そのときの孝君の優しさとパンの味は、今でもはっきりと私の記憶の中にある。


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