初めて友達になった中学生


 無線にも少しなれ、Nさんという友達ができ、俺は無線をやりに家に帰るのが楽しみで仕方のない学校生活を送っていた。
 しかし、一つちょっと不満があった。Nさんという優しい友達に恵まれてはいたが、当時中学生だった俺は、やっぱり同じ年頃の友達が欲しかった。
 それはNさんとその友達との会話に、俺が入れてもらっていたときの話だった。俺は何気なく、
「みなさんと話しているのも楽しいですけど、やっぱり同じ年ぐらいの友達が欲しいですね。盲学校に通っていると、同じ年頃の普通の学校の人と友達になる機会が少ないんですよねえ。」
という話をした。すると、そのNさんの友達が、
「TomG君は確か中学1年生だったよね。そうするとこの辺だと、M市に7K3XXXって局がいるんだけど、聞いたことある?」
なんていうではないか!!そう、そのコールサインの持ち主は、ついこの間、俺がフォネティックコードを教わったあの人だったのだ。
確かに若そうな声はしていたけど、あの人も中学生だとは思わなかった。
 そこで俺は、そのあとその会話を抜け出して、メインチャンネルでその人を呼び出してみた。そうすると、なんと運がいいことに、その人はちょうどメインチャンネルを聞いていて、すぐに応答してくれた。
そして、その人(Kさん)も、俺の存在に気づき、捜してくれていたという。
 アマチュア無線の世界というのは、総合しておじさんが一番多い。その当時430MHz帯は一番にぎやかな時期だったが、それでもやはりほとんどがおじさんで、学生というのはその中の10分の1程度だった。
そんな状態だから、学生局というのは、常に自分の近くや電波の届く範囲に気の合う仲間を捜している。そして、メインチャンネルを聞いていて、
「この人はもしかして同じぐらいの年の日とかな?」
と思うと、その人がCQを出していた場合、すぐに飛んでいって声をかけ、そうではなかった場合には、メインに張り付いて、その人がCQを出すのを待っていることがある。
 そんな風だから自然と学生局は自分たちでグループを作って、ある一定のチャンネルに集まって話すようになる。そうしてできたグループのことを「学生集団」などという。しかし、俺の住んでいた栃木県には、当時宇都宮に一つの学生集団があったが、俺の住んでいる地域には学生集団は存在しなかった。だから、この地域で無線をやっている学生局は、宇都宮の学生集団に混ざって話すか、気のあった大人と話をするか、始めたばかりの学生を捕まえるなどの方法で暇をつぶしていた。
ちなみに宇都宮学生集団は規模が大きく、かなりの範囲をカバーしていた。
 Kさんは、友達の局から俺が同じ中学生だと聞いて、捜していてくれたのだという。
 実はTomG君は、今まで盲学校以外の中学生とじっくり話をしたことがなかったので、Kさんとの会話は新鮮なものだった。しかも、Kさんは、俺が目が見えないということを打ち明けると、
「そんなのは別に気にしなくてもいいよ。同じ中学生のフレンド局として、これからもよろしく!」
といってくれた。
 Kさんは俺の一つ上の先輩だった。
 そして俺と同じようなことが好きだったので、無線の本はもちろん、ミニFM開局のための本、機械の作り方の本など、今まで俺が読みたくてしょうがなかったような本をたくさん持っていたし、さすが無線の世界でも先輩なだけ会って、かなりいろいろなことに詳しい人だった。
そんなわけで俺とKさんは、すっかり気が合って、それから俺が無線に出られる日は毎日の様に3時間とか4時間、多いときには5時間も話すぐらいになった。
 俺はKさんからいろいろなことを教えてもらっただけでなく、友達も紹介してもらった。
 この日を境に、俺は今までの盲学校の中だけの世界から、普通の友達のいる広い世界へと、大きな一歩を踏み出したのだった。  この時期にKさんとの会話の中で身に付けたことや、Kさんを通して知り合いになった多くの仲間たちは、将来俺が
「栃木学生ハムクラブ(通称3.70学生集団)」を結成する上で、とても大切な要素となったのである。ちなみに、本サイトの掲示板でおなじみのにゃすこさんも、この時期に知り合った仲間の一人である。

用語、表現解説


メインに張り付く
メインチャンネル(呼び出し専用のチャンネルをずっと聞いていること。
無線に出る
交信をするという意味。正確には、どこかのチャンネルで会話をすること。
CQ
不特定多数の人を呼び出す特別な符号。平たく言ってしまうと、「どなたでも結構ですから、交信をお願いします」という呼びかけ。この呼びかけを行うことを「CQを出す」という。

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